はじめに
私の勤務する会社では、経営企画、総務、法務、財務・経理等の管理部門ないし共通系の組織では、管理職が単一の業務だけでなく、他の組織・他の業務を兼務することがあります。
その背景となる事情は、主として、自社が属する企業グループ内の組織変更により、管理部門における管理職の人数に変更(減少)が生じたことによるものです。
管理部門の管理職の員数が減少したとしても、それが業務の減少を意味するわけではありません。
それどころか、ビジネスの進展やそれに伴うユーザーやビジネスパートナーとのトラブル等も生じやすい状況も生まれ、従前よりも業務量や稼働が増えたという会社・組織も少なくないでしょう。
企業は、こうした事象に対応するため、1人の管理職が複数の仕事(課・担当)を兼務するという結果に至ったわけです。
もっとも、法務の管理職が兼務をする場合、どのような業務・課・担当の業務を担うことが効率的または相乗効果を期待することができるでしょうか。
構成の仕方によっては、負担が重くなるばかりとなり、兼務先の業務を十分に遂行することができないだけでなく、本来業務である法務についてもマイナス効果を来してしまうことにもつながります。
そこで、この記事では法務の管理職が他の業務の管理職を兼務することをけんとうするにあたり、どのような業務を兼務することが適当であるといえるのかを解説していきます。
この記事を読むことにより、法務の管理職の兼務先として何がふさわしいのか、また、組合せの悪い業務が何であるのかを知ることができます。
ぜひ、最後まで読んでください。
法務が他業務を兼務することの意味
社員に対して兼務を発令するのは、会社の人事部門です。
人事部門は、兼務発令の対象者として組織名、すなわち「法務だから兼務させよう」という発想を取ることは通常ありません。
なぜなら、法務に限らず、本来業務以外にも業務を担わせることにより本来の業務に支障を来すようなことがあってはならないからです。
よって、人事部門としては組織に焦点をあてて兼務を決するのではなく、あくまで「この人であれば兼務させることによって業務品質を落とすようなことはない」とか、「複数の業務をこなすことで相乗効果を発揮してくれるはず」というように、「人」に焦点をあてて兼務させるべき社員であるか否かを判断するのです。
会社が特定の社員に対して兼務発令を行う理由
既に説明したように、会社が特定の社員に対し複数の業務を兼務させる狙いは、主として業務に十字する人材が不足しているためであることが多いといえます。
これには、単純に社員数が足りないという場合もありますが、一定の社員数はいるものの、対象となる組織ないし業務に対応するだけのスキル等を備えている人材が見あたらないため、会社が求めるレベルに近い社員、ないしは早期にそれを身に着けることができると見込まれる社員を兼務させて、その技術を磨くとともに経験を積ませることを通じ、さらに成長させようとすることがあります。
各社の置かれている状況によって区々ですが、兼務が一時的なもの(3か月から半年)な場合もあり、キャリア採用(中途採用)等により必要な人材を確保することができた場合には、兼務を解いて元の本業に専念させることがありますが、状況によっては、中期的に兼務を続けてもらうことになる場合の両方があり得るのです。
仕事ができることの証?
上述のように、会社の人事部門から兼務発令を受けるのは、組織や担当する業務に焦点を当てた結果ではなく、「人」に焦点を当てた結果、すなわち「その人であれば仕事を任せることができる」という判断によるものであることが通常です。
このため、会社からみて一般に「仕事ができる」という評価を受けている社員が兼務の対象になるとみて良いでしょう。
会社がそのような評価をする理由を一言でいえば、評価の高い社員は一般に「時間を有効に使うことができる」という判断をされていることが多いのです。
つまり、限られた勤務時間の中で複数のタスクをこなすには、無駄な動きを省くことは勿論、多方面に配慮し、気を付けるべき事項を意識して仕事を進めなければなりません。
他の社員よりも1件当たりの仕事の処理時間も短いことが多いのが通常です。
もちろん、仕事が早いだけで業務品質が劣ることがあってはいけません。
ですが、評価の高い社員の場合、仕事の処理時間が早いことに加え、業務品質も良い傾向にあります。
会社は、こうした部分に着目し、兼務発令をしても、会社の期待に応えてくれる人材か否かを判断しているのです。
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果たして兼務は出世の花道なのか?
では、会社から兼務を命じられる社員が一般的に見て仕事ができる社員であることが多いということであるならば、既に複数の業務を兼務している人は内心嬉しく思うか、少なくともホッとすることが多いでしょう。
すなわち、「自分は会社から高い評価を受けている」「出世の道が開かれている」という気持ちを抱くことがあるでしょう。
その反面、単独の業務を担うのみである場合には、会社からの評価ないし期待が少ないことを意味しているのではないかと考え、悩んでしまう人もいるかもしれません。
しかし、単に兼務しているか否かという結果のみに着眼して一喜一憂する必要はまったくないのです。
社員の評価は、兼務の有無といった事項のみを重要視してなされるものではないからです。
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法務スタッフに相応しい兼務とは
この項では、企業の法務部で業務に従事する社員が社内で兼務するに相応しい組織ないし業務として何があるかを検討していくことにします。
法務部でのスキルと親和性の高い組織と業務という観点から検討すると、次に掲げる組織・業務があります。
コンプライアンス部門(人権啓発、危機管理を含みます)
法務部で業務に従事する社員にとって、最も親和性の高い組織として思い浮かべることのできるものの代表格がコンプライアンス部門です。
コンプライアンス部門は、企業が法令や規則を順守するための体制を整え、その運用をサポートする役割を担っています。
法務部で培った法律的知識や調査能力は、コンプライアンス部門での業務において大いに役立つと言えるでしょう。
具体的な業務としては、次のようなものが考えられます:
- 社内コンプライアンス規程の作成・改訂
- 内部通報案件に関する社内調査の実施
- 法令違反に対する社内対応の指示管理
- 再発・再編防止に向けた対策の立案
このような業務は、法務部での業務と親和性が高く、兼務発令を受けた社員においてもスムースに着手することが可能であるといえます。
法務部の社員がコンプライアンス部門を兼務することで、両部門間の情報共有や連携が強化され、企業全体としての法令順守体制が一層強固となるという側面もあります。
情報セキュリティ部門
次に考えられる兼務先として、情報セキュリティ部門があります。
近年、情報漏洩やサイバー攻撃などの企業が直面する情報リスクは増大傾向にあり、企業の情報セキュリティ、さらにはシステムセキュリティ対策は重要な課題となっています。
法務部の社員は、情報の管理や保護に関する法律や社内規程の策定、訴訟等の紛争対応等の業務経験を活かすことを通じ、情報セキュリティ部門で重要な役割を果たすことができます。
セキュリティに強い法務部員は、今後、転職するにあたっても注目されるでしょう。
情報セキュリティ部門の業務は次のようなものがあります:
- 情報セキュリティポリシーの策定・改訂
- セキュリティリスクの評価と対策の立案
- 情報漏洩発生時の対応マニュアル作成と実施
法務部の社員が情報セキュリティ部門を兼務することにより、法的視点からのセキュリティリスク評価を行うこととなり、企業の情報セキュリティ強化に貢献し得ることにつながります。
また、会社全体において、法務部と情報セキュリティ部門の連携が深まることで、情報漏洩対策がより効果的に実施することができるようになります。
リスクマネジメント部門
企業におけるリスクマネジメントも、法務部との親和性が高い業務のひとつです。
リスクマネジメント部門は、組織全体のリスクを評価し、適切な対策を講じることで、企業の継続的な成長を支える役割を担っています。
法務部は、契約案件は勿論、M&Aや自社グループの組織再編等の案件に対し、法務の観点から参画しているため、個々の事業に関する法的リスクについて知見を有しています。
このため、リスクマネジメント部門での業務にその知識を活用し、会社に貢献することができるといえます。
リスクマネジメント部門の業務内容は以下の通りです:
- リスクの特定と評価
- リスク軽減策の策定と実施
- 内部統制の強化
- 保険契約やリスク移転手段の管理
法務部の社員がリスクマネジメント部門を兼務することで、法的リスクと経営リスクを一体的に考慮した施策の立案が可能になり、企業のリスク管理能力が向上するといえます。
知的財産部門
知的財産部門も法務部との親和性が高い部署の一つです。
知的財産部門では、特許、商標、著作権などの知的財産権の取得・管理・活用を行い、企業の技術やブランドを保護する役割を担っています。
法務部での知識と経験を活かし、知的財産部門での業務に従事できる場合があります。
具体的な業務内容は以下の通りです:
- 特許出願および権利化手続き
- 商標登録申請と管理
- 知的財産権侵害調査と対応
- ライセンス契約の作成・交渉・管理
法務部の社員が知的財産部門を兼務することで、法的視点からの知的財産戦略の推進が可能となり、企業の競争力強化に貢献します。
もっとも、知的財産部門の場合には、いわゆる技術系の大学・学部の出身者が多く、事務系学部である法学部出身者にとって、その技術的内容を理解していく課題があることは留意しておく必要があります。
このように、法務部の社員が兼務するうえで親和性のある組織として、コンプライアンス部門、情報セキュリティ部門、リスクマネジメント部門、知的財産部門を挙げることができます。
いずれの部門においても法務部の知識や経験を活かすことができ、部門間の連携が強化されることにより、会社全体のパフォーマンスが向上していくといえます。
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法務スタッフに兼務させてはならない業務とは
法務部は企業の法律問題を扱い、法的リスクを適切に管理する必要があります。
このため、会社の業務の中には、法務部社員が兼務することは避ける必要があるものもあります。
代表的な業務は、次のとおりです。
内部監査
内部監査は、企業の業務や財務報告が適切かどうかを独立的な立場から客観的に確認する役割を担っています。
法務部が内部監査業務を担当すると、監査の独立性が損なわれる可能性があります。
法務部は、企業の法的リスク管理の一環として内部監査部門と緊密に連携すべきではありますが、その兼務は避けるべきです。
内部監査の独立性は、企業の信頼性と透明性を確保するために重要です。
経理・財務
経理・財務についても、法務部が兼務することは避けるべき組織・業務であるといえます。
経理や財務の管理を兼務した場合、利益相反の問題が生じる可能性があるためです。
それぞれの専門知識が大きく異なるため、法務部が経理や財務管理を兼務することで、企業全体の業績や財務報告に対する信頼性が低下するリスクがあります。
もちろん、日常の業務において法務部と経理・財務部門とが緊密に連携することをは勿論有効ですが、社員が兼務するということは避けることとしてください。
人事管理
人事部門と法務部門はそれぞれ異なる専門性を求められます。
法務部が人事管理を兼務した場合、雇用や労働法に関わる問題が発生した際に、中立的な立場を維持することが難しくなります。
法務部は、労働法や雇用関連の法的助言を提供する役割に徹し、人事管理自体は避けるべきです。
事業開発・営業部門
事業開発や営業部門は、事業の拡大・発展を目的とする部門です
法務部が事業開発や営業を兼務すると、法律の遵守が疎かになるリスクがあります。
さらには、利益を優先することで法的リスクが増加する可能性もあります。
もちろん、法務部門が事業拡大のプロジェクトに積極的に参画し、法的な専門知識を活かして、個々のプロジェクトを成功に導くための役割をしっかりと担うことは評価されるべきことですが、兼務という手法は避け、法務経験者を事業開発・営業部門に異動させて、そこで当該事業開発・営業に専念させ、その後、さらに法務部に復帰して、事業開発部門で得た知見を法務に広めて、法務部員の視野をさらに広げていく役割を果たしてくれたならば、組織として大きな力になるでしょう。
まとめ
この記事では、法務部の社員が社内で兼務をする場合、会社はどのような理由から社員に兼務を命じるのかを説明したほか、兼務するに適切といえる代表的な組織ないし業務と反対に兼務を避ける方が良い組織・業務を解説してきました。
各社が置かれている事情に加え、業務の独立性や専門性を損なうリスクの有無に注意を払いつつ、兼務の是非を判断していく必要があります。
以上の点を考慮して、法務部の社員が兼務を避けるべき理由を理解し、組織全体の法的リスクを効果的に管理するために適切な役割分担を心掛けることが重要です。