はじめに
企業の法務部門においては、日々変化する法制度に適応しながら、労働問題への正確かつ迅速な対応が求められています。
特に近年では、パワーハラスメントやメンタルヘルス、労働時間管理に関するトラブルが増加傾向にあり、法的リスクを未然に防ぐ体制づくりが不可欠となっています。
そのような背景の中で、実務に即した法的知識を備えた専門人材へのニーズが高まっています。
こうした流れの中で注目を集めているのが「労働法務士」の資格です。
この資格は、労働法の基本から応用までを体系的に学ぶことで、労務管理や労働紛争対応に強くなれるという特長を持っています。
単に法令を知るだけでなく、職場の現場で実際に活用できる知識を身につけることができるため、法務部員としての実務能力向上に直結する非常に有益な資格といえるでしょう。
さらに、労働法務士資格を取得することで、社内外における信頼性の向上や、キャリアのステップアップを目指す際の強力なアピールポイントともなります。
本記事では、労働法務士の資格概要、試験情報、取得によるメリット、そして効果的な受験対策方法までを丁寧に解説してまいります。

労働法務士とは
労働法務士の役割とは?
労働法務士は、労働法および関連法規に関する高度な専門知識を有することを証明する民間資格であり、企業における労務管理のスペシャリストとしての活躍が期待されます。
特に近年は、働き方改革や多様な雇用形態の普及により、企業の人事労務対応がより複雑化しており、労働法の的確な運用が求められる場面が増えています。
こうした背景の中で、労働法務士は法的知識と実務感覚を兼ね備えた貴重な人材として注目されています。
この資格を保有することで、以下のような多岐にわたる業務を専門的かつ法的裏付けをもって遂行することが可能になります。
単に法的な理論を理解するだけではなく、実際の現場で生じる労務問題に対して即座に対応できる実践力を身につけることができます。
- 就業規則や賃金規程などの社内規程の整備・見直しに対して、最新の法改正や裁判例を踏まえた適切なアドバイスや文案作成を行う
- 労働契約書の法的チェックやリスクの洗い出し、契約内容の明確化支援により、トラブルの未然防止に寄与
- 労働基準監督署からの是正勧告や調査への対応において、会社側の立場から法的説明資料の準備・支援を行うことで迅速な是正措置を実現
- 労働紛争(解雇、退職勧奨、労働条件変更など)における初期対応や社内対応方針の策定支援を通じて、訴訟リスクの軽減を図る
- パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント等の防止研修の企画・実施や社内相談窓口体制の整備を通じて、職場環境の改善に貢献
- 長時間労働や過重労働によるメンタルヘルス不調者への対応策の法的助言、またストレスチェック制度への対応支援
- 労働条件の明示義務や副業・兼業に関する社内規程整備など、昨今の法改正への対応を見据えた組織的な助言
このように、労働法務士の知識は法務部門にとどまらず、人事、総務、経営企画、監査部門などとの連携を図りながら、企業全体のコンプライアンス体制の強化と労務リスクの予防的対応に寄与します。
まさに”実務に強い法律人材”として、労働分野の専門性と対応力の両面から、多方面の企業活動を下支えすることができる資格です。
社労士との違い
社会保険労務士(社労士)は国家資格であり、厚生労働省の管轄下で登録・監督される公的資格です。
社労士の主な業務は、企業における社会保険や労働保険の手続代理、就業規則などの帳簿書類の作成代行、労使トラブルに関する労働局との調整などが挙げられます。
また、年金や助成金に関する申請業務も担当することができ、実務上の「代行権」を有する業務独占資格です。
一方で、労働法務士は民間の認定資格であり、法律実務や知識習得に主眼が置かれています。
そのため、法的な代理行為や公的手続の代行は行えないものの、社内における法務・人事実務を円滑に行うための実践的知識を有していることを証明できます。
特に、労働契約、労働時間管理、ハラスメント対策、メンタルヘルス支援など、現代の職場環境における課題に対し、法的根拠を持って改善・提案ができる点で、実務的な価値が高く評価されています。
さらに、取得までのハードルという観点では、労働法務士は受験資格に制限がなく、比較的短期間の学習で合格が可能であることから、初学者や多忙な社会人にとっても挑戦しやすい資格といえます。
社労士が「手続のプロフェッショナル」ならば、労働法務士は「現場に強い法務担当者」として、補完的かつ実務志向の高い役割を果たします。
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試験
受験資格
年齢・学歴・職歴等の制限はなく、誰でも受験可能です。
法務部員はもちろんのこと、人事・総務部門で労働関連業務に携わる方、あるいは現場のマネジメントを行う管理職の方にも大変おすすめの資格です。
特に、労働法に関する基礎的な知識を持ちたいと考える若手社員や、将来的に人事・労務のスペシャリストを目指したいと考えるキャリア志向のビジネスパーソンにとっては、最初のステップとして非常に適した試験といえるでしょう。
また、社会保険労務士試験の受験を検討している方が、その前段階として労働法務士試験にチャレンジするケースも少なくありません。
受験資格に制限がないという点は、多忙な社会人や子育て中の方、キャリアチェンジを模索している方々にとっても大きなメリットとなります。
誰でも挑戦できる門戸の広さこそが、労働法務士試験の魅力の一つといえるでしょう。
受験料
受験料はおおむね12,000円(税込)前後となっており、試験を主催する団体や受験する年度によって若干の差があります。
インターネット経由で申し込む場合と郵送申し込みの場合で料金が異なることもあるため、事前に公式ホームページで最新情報を確認しておくことが重要です。
また、団体受験制度を設けている場合には割引が適用されるケースもあり、企業単位での受験奨励にも適しています。
試験科目
労働法務士試験では、企業の労務管理や法務実務に密着した幅広い法令が出題範囲とされており、法制度の知識だけでなく、実際の現場対応を想定した応用力が求められます。
以下の科目が中心となりますが、それぞれの法令には、近年の法改正や裁判例を踏まえた出題も含まれているため、常に最新情報のキャッチアップが必要不可欠です。
- 労働基準法:労働時間、休日、有給休暇、割増賃金、解雇制限などの基本的労働条件を定め、すべての労働関係の基礎となる法律。特に残業の上限規制や36協定に関する実務知識が重要です。
- 労働契約法:個別労働契約の成立から終了までの原則、就業規則との関係、合理的な労働条件変更の判断基準などが出題されます。
- 労働組合法:労働組合の結成・運営、団体交渉、労働協約、争議行為の正当性判断など、集団的労使関係の枠組みを理解する必要があります。
- 労働安全衛生法:安全衛生管理体制、労災防止策、産業医制度、ストレスチェックなど職場の安全・健康管理に関連する規制を学びます。
- 男女雇用機会均等法:募集・採用、配置・昇進・教育訓練、定年・退職などにおける性別差別の禁止や、セクシュアルハラスメントへの企業の対応義務などが問われます。
- 育児・介護休業法:育児休業、介護休暇制度の取得要件、申出義務、期間延長条件など、育児・介護と仕事の両立支援策に関する詳細な法知識が必要です。
- ハラスメント対策に関する規定:パワーハラスメント、マタハラ、LGBTQに関する差別の防止など、多様化する労働環境に対応した企業の法的義務と実務的な対応策について出題されます。
その他、労働者派遣法、労災保険法、雇用保険法など周辺法令にも触れる出題があり、周辺知識を含めた体系的な理解が求められます。
また、設問形式としては択一式が中心ですが、実務的なケーススタディを含むシナリオ型問題が出されることもあり、単なる暗記だけでは対応が難しい場面もあります。
したがって、実務に即した視点で法令を理解し、判断力を養うことが重要です。
試験日/試験時間
試験は通常、年に1回から2回程度の頻度で開催されており、主催団体によって開催日程が設定されます。
直近の開催情報や受付期間、受験会場の詳細については、必ず主催団体の公式ホームページにて確認する必要があります。
また、実施時期は春(5月〜6月)や秋(10月〜11月)に設定されることが多く、企業の人事スケジュールにも合わせやすい配慮がなされています。
試験時間はおおむね90分から120分程度であり、問題形式は主に四肢択一式または五肢択一式の筆記試験です。
ただし、一部の回では選択肢の難易度を高めた応用問題や、実務対応を想定した事例設問などが導入される場合もあり、単なる知識の暗記だけではなく、実務に即した判断力が問われる構成となっています。
また、オンライン試験の導入を検討する動きも一部団体で見られ、今後は受験形式の多様化が進む可能性もあります。
受験に際しては、試験時間の配分や問題傾向を過去問などで事前に把握し、時間内に解答を完了できるようトレーニングを積んでおくことが大切です。
難易度/合格率
合格率はおおむね60〜70%とされており、資格試験の中でも比較的取り組みやすい部類に入るといわれています。
とはいえ、出題範囲が広く、法改正や判例にも対応した内容が含まれるため、油断は禁物です。
特に法務の実務経験が少ない場合は、労働法の基本的な考え方をしっかりと理解する必要があり、単なる暗記では太刀打ちできない場面もあります。
労働法務士試験は、基礎知識と応用力の両方がバランスよく問われる構成となっており、法令を文字通りに理解するだけでなく、職場での実際のケースに当てはめて判断する力が求められます。
合格者の多くは、過去問を繰り返し解くことで問題の出題傾向に慣れ、時間配分や判断基準を体得しています。
また、近年では労働関連法規の改正が頻繁に行われているため、受験時には最新情報の把握が極めて重要です。
労働安全衛生法や育児・介護休業法に関する新制度が反映されることもあるため、直近の法改正動向にも常に注意を払うことが、合格への近道といえるでしょう。
労働法務士の資格を取得するメリット
法務や人事における専門性の証明になる:労働法務士資格を有していることは、企業内外に対して自らの専門知識を公式に証明する手段となります。
とりわけ、労働法に関する実務的知識の深さをアピールすることで、信頼性の高い人材として認識されるきっかけとなります。
社内の信頼度向上・評価アップ:資格取得により、業務への取り組み姿勢や自己研鑽の意識が社内で高く評価されます。
昇進・昇格においても、業務知識の裏付けとしてプラス材料となる可能性が高まります。
実務に直結した法的知識を得られる:労働法務士は理論と実務の橋渡しとなる知識体系を備えており、職場で起きる労務トラブルや労働条件の確認・調整に即座に対応できるスキルを身につけられます。
現場の即戦力として機能できる実務知識が身につきます。
キャリアアップや転職時の差別化:転職市場においても、「労働法務士」の肩書きがあることで、労働関連業務に即戦力として関与できることを証明できます。
人事労務やコンプライアンスを重視する企業においては、応募者の中で一歩リードする材料になります。
労働トラブルを未然に防ぐリスクマネジメント力がつく:労働契約、就業規則、労働時間管理、ハラスメント対策など、職場で生じやすい問題を法的観点から予見・対応する力を備えることで、企業のトラブルを未然に防ぎ、リスクマネジメント能力を発揮できます。
組織横断的な連携スキルの向上:労務に関連する法的知識を持つことで、法務部、人事部、総務部など複数部門間の円滑な連携が実現します。
各部門の理解を促進し、組織全体の法的リテラシー向上に貢献できる存在となります。
企業法務を担う上で、これほど実務的かつ即戦力となる資格は多くありません。
知識だけでなく、現場対応能力の高さが評価される現代において、労働法務士資格はその価値をますます高めています。
受験対策
おススメのテキスト/過去問集/アプリ
- 『労働法務士公式テキスト』:基礎から応用まで体系的に網羅されており、初学者から実務経験者まで幅広く対応可能。図解やケーススタディも豊富で、理解を深めやすい構成となっています。
- 『労働法務士過去問題集』:近年の出題傾向を反映した問題が掲載されており、本番形式の演習が可能です。解答だけでなく解説も丁寧で、なぜその選択肢が正しいのか、間違っているのかを論理的に理解することができます。
- スマホアプリ:「労働法miniテスト」「労働法務士暗記カード」など、短時間で効率よく復習できる設計となっており、通勤時間や隙間時間の学習に最適です。特にアプリの中には、間違えた問題のみを自動で出題する復習機能や、法改正に対応した最新情報を配信する機能を備えたものもあります。
さらに、動画解説を取り入れたオンライン講座も注目されています。
プロの講師による要点解説や問題演習講義は、独学での理解を補強するうえで非常に有効です。
各種通信教育会社や資格スクールでも、労働法務士向けの通信講座が提供されており、費用対効果や学習スタイルに応じて選ぶことができます。
このように、書籍・アプリ・オンライン講座など複数の学習ツールを活用することで、効率よく実力を高めることができ、合格への確度を大きく高めることが可能です。
合格に必要な勉強時間は?
法律初心者の場合、合格までに必要な学習時間はおおむね50〜70時間とされていますが、これはあくまで目安です。
実際には、法的用語への慣れや、条文の理解速度、過去問への取り組み方によっても大きく前後する可能性があります。
基礎知識がない方は、まずは法律の全体像を把握する導入学習に時間をかけるとよいでしょう。
一方、法務経験者や社会保険労務士試験の受験経験者など、ある程度の前提知識がある場合には、30時間前後の学習でも合格は十分に可能です。
この層においては、最新の法改正点や出題傾向を中心にポイントを絞った学習が有効です。
共通して大切なのは、継続的に短時間でも学習を積み重ねることです。
毎日の学習時間を一定に保ち、過去問の反復練習や模擬試験などを取り入れて、アウトプットを意識した勉強スタイルを確立することが、合格への近道です。
特に法改正があった部分は重点的に押さえておく必要があり、情報更新にも敏感になる姿勢が求められます。
まとめ
労働法務士は、法律の専門知識を実務に落とし込むための架け橋となる極めて有益な資格です。
特に法務・人事・総務といった部門では、労務トラブルやハラスメント、労働契約、就業規則の整備など、日々発生する多様な課題に対して法的な裏付けをもって対応できるスキルが求められています。
そうした背景の中で、労働法務士としての知識とスキルを身につけることは、自身の市場価値を大きく高めることにつながります。
また、社内における信頼の獲得やキャリア形成の一環としても有効であり、資格取得を通じて職場内外での影響力を強化することが可能です。特に労務問題への対応力を高めることで、予防的なリスク管理を実現し、組織全体のコンプライアンス水準を底上げすることができます。
さらに、労働法務士試験は受験資格に制限がなく、比較的短期間での学習でも合格を目指せる点で、忙しい社会人や法務分野初心者にとっても挑戦しやすい環境が整っています。
学びやすく、実務で活かせる知識が得られるこの資格は、まさに“今、求められる実践的な武器”であるといえます。
この機会にぜひ、労働法務士試験への挑戦を通じて、自らの可能性を広げてみてはいかがでしょうか?あなたのキャリアが一歩前進するきっかけとなるはずです。