「法務部の仕事はきつい」「法務部への転職は難しい」——。
インターネットで法務部の仕事について調べると、このようなネガティブな情報にたどり着くことが少なくありません。
法務という専門性の高い組織であるため、「エリートで狭き門」というイメージを持つ方も多いでしょう。
事実、近年、企業における法務部門の重要性は高まり、その役割は「守り」から「攻め」へと広がりつつあります。
M&Aや新規事業の立ち上げにおいて、法務部門の戦略的関与が企業の成長を左右するとさえ言われる時代になりました。
しかし、それに伴う業務の複雑化や責任の増大から、「きつい」と感じる法務担当者がいるのも事実です。
実際の法務部の仕事は、一言で「きつい」と片付けられるほど単純ではありません。
確かに大変な側面はありますが、その一方で、他の仕事では得られない大きなやりがいと、輝かしいキャリアパスが待っているのも事実です。
この記事では、現役法務職としての経験も踏まえながら、世間で言われる「きつさ」の正体を徹底的に分析し、その根本的な理由と具体的な解決策を提示します。
さらに、その先に広がる法務職ならではのキャリアの可能性と、仕事の奥深い魅力について深く掘り下げていきます。
法務のキャリアに興味がある方、現在法務で働いていて悩みを抱えている方にとって、この記事が具体的な未来を描くための羅針盤となれば幸いです。
なお、別記事において法務部門の業務について概説しています。ご興味をお持ちの方は併せてご覧ください。

- 「きつい」と言われる理由を徹底解剖
- 具体的な解決策を提示
- 「守り」から「攻め」への転換
- 多様なキャリアパスを詳説
- 法務職のやりがいを再発見
なぜ法務部の仕事は「きつい」と言われるのか?その理由と解決策を徹底解説
- 膨大な業務量と締切に追われる日々
- 専門知識の習得とアップデートが不可欠
- 部署間調整の難しさと板挟みになるストレス
- 「予防法務」の重要性と責任の重さ
- 常に変化する法律への対応
- 経験者採用の多さ、未経験者が直面する壁
膨大な業務量と締切に追われる日々
法務部の仕事は、日々の契約書レビューや法律相談に加え、M&A、新規事業立ち上げ、資金調達、組織再編といった大型プロジェクトが突発的に発生します。
これらの案件は、いずれも企業の経営に直結する重要なものであり、一つひとつの業務に迅速かつ正確な対応が求められます。
特に、四半期末や年度末、あるいは特定のプロジェクトの山場では、契約締結や法務デューデリジェンス(適正評価手続き)が集中し、業務量が急増します。
こうした膨大なタスクと厳しい締切に追われることが、法務部の仕事が「きつい」と言われる大きな理由の一つです。
この課題を解決するためには、単なる根性論では限界があります。
まずは、法務部門の業務を可視化・標準化することが重要です。契約ライフサイクルマネジメント(CLM)システムや、AIを活用した契約書レビュー支援ツールなどを導入することで、日々の定型業務を自動化・効率化することが一つの解決策となります。
また、部署内での役割分担を明確にし、重要度と緊急度に基づいたタスクの優先順位付け(例:アイゼンハワーマトリクス)を徹底することも重要です。
さらに、デジタルツールを駆使した効率化は、単なる業務負担の軽減に留まらず、法務担当者がより高度な、戦略的業務に時間を割くことを可能にします。
専門知識の習得とアップデートが不可欠
法務部の仕事は、民法、会社法、独占禁止法、労働法、知的財産法など、多岐にわたる専門知識を必要とします。
さらに、近年では、個人情報保護法、景品表示法、電子商取引関連法、そして海外ビジネスにおける各国法や国際法など、専門性が細分化され、その範囲は広がり続けています。
特に、AIやデータ利活用に関する規制、サステナビリティ関連法(ESG)、カーボンニュートラルといった、新興分野の法律知識は、企業の競争力を左右する重要な要素となっています。
新しい法律が次々と施行され、既存の法律も改正されるため、一度知識を身につければ終わりというわけではなく、常に学び続け、知識をアップデートし続けなければなりません。
この継続的な学習は、大変だと感じるかもしれませんが、これは「きつい」という側面であると同時に、専門家として常に成長し続けられるという大きなメリットでもあります。
法務の専門知識は、AIに代替されにくい知的資産であり、あなたの市場価値を確固たるものにしてくれるでしょう。
企業の法務担当者として、法律事務所が主催するセミナーへの参加や、ビジネス実務法務検定、個人情報保護士などの資格取得を通じて、自己研鑽を続けることが求められます。
部署間調整の難しさと板挟みになるストレス
法務部は、営業、開発、人事、広報など、会社のあらゆる部署から契約書レビュー、法律相談、トラブル対応といった依頼を受けます。
各部署の要望を尊重しつつ、会社全体のリスクを考慮した最適な解決策を提示しなければならないため、調整役としての高いコミュニケーション能力と交渉力が求められます。
例えば、営業部門が迅速な契約締結を求める一方で、法務部はリスクを徹底的に排除するために契約条項の修正を提案する、といったケースは日常茶飯事です。
この際、法務担当者は両者の意見の衝突を仲裁し、ビジネスの成長を阻害することなくリスクを管理するという、非常にデリケートな役割を担います。
こうした精神的なストレスは、「うざい」「関わりたくない」といったネガティブな感情を抱かれる原因にもなります。
しかし、逆に考えれば、これは全社の事業を円滑に進めるための要として、あなたが重要な役割を担っている証拠でもあります。
各部署の事情を深く理解し、「法務は事業のパートナーである」という姿勢で接することで、信頼関係を築き、このストレスをやりがいに変えることができます。
法務部門の存在意義を社内に浸透させる「インナーブランディング」も重要であり、日頃からビジネス部門との対話を密にすることで、法務部への理解と協力関係を深めることができます。
法務部門が自社内で「うざい」と受け取られる可能性があることについては、別記事で解説をしています。
ご興味をお持ちの方はご覧ください。

「予防法務」の重要性と責任の重さ
法務部の最も重要な役割の一つは「予防法務」です。これは、トラブルが起こる前に対策を講じ、会社のリスクを未然に防ぐことを指します。
この仕事は、目に見える成果が出にくく、「何もないこと」が成功であるため、その責任の重さからプレッシャーを感じることがあります。
しかし、その目立たない水面下の努力が、会社の数億円規模の損失や、ブランドイメージの失墜を防いでいるのです。
例えるなら、予防法務は、会社の「健康診断」や「ワクチン接種」のようなものであると表現することができます。
- 健康診断:定期的に会社の業務や契約内容をチェックし、将来起こりうる問題(健康リスク)の予兆を見つけ出します。
- ワクチン接種:新しい契約を結ぶ前に、事前にリスクを洗い出し、問題が起きないように契約条項を調整します。これにより、将来の法務トラブルという「病気」を未然に防ぎます。
単にトラブルが起こってから対処する「治療」だけでは、会社の体力はどんどん削られてしまいます。
法務担当者は、単に法律を適用するだけでなく、リスクを予測し、ビジネス上の問題を未然に防ぐ「リスクマネジメント」の専門性を有する人材として、事業の安定と持続的な成長に不可欠な存在となり得るのです。
常に変化する法律への対応
テクノロジーの進化や社会情勢の変化に伴い、法律も常に変わり続けています。
例えば、SaaSビジネスにおける利用規約の変更、AIやデータ利活用に関する規制、海外展開における各国の独占禁止法や知的財産権の保護など、新たな分野の法律にキャッチアップし、対応策を練る必要があります。
特に、グローバルに事業を展開する企業では、複数の国の法律や商慣習に対応しなければならず、その複雑さは増す一方です。
この変化への対応は、法務担当者にとって大きな負担になりがちですが、見方を変えれば、最先端のビジネスに法律の観点から関与できる、またとないチャンスでもあります。
例えば、新しいデジタルサービスを立ち上げる際に、法務部門が初期段階から関与し、将来的な法的リスクを回避するためのスキームを提案することが考えられます。
この迅速な対応力こそが、企業を他社よりも優位に進める戦略的な武器となるのです。
経験者採用の多さ、未経験者が直面する壁
多くの企業が即戦力を求めて法務職の経験者採用を優先するため、新卒や異業種からの転職者にとっては「狭き門」に感じられるかもしれません。
しかし、未経験から法務部への道が完全に閉ざされているわけではありません。
法律事務所でのパラリーガル経験や、企業の総務部門で契約書に触れる機会を持つなど、関連業務の経験を積むことで、法務部への転職を成功させる道は開けます。
また、日商簿記やTOEICなどのビジネススキル、あるいは中小企業診断士のような経営知識を身につけることで、法務の専門性に加えて企業の課題を多角的に解決できる人材として、大きなアドバンテージを得ることができます。
さらに、最近では、法務担当者を積極的に育成しようとする企業も増えてきており、ポテンシャル採用の門戸も広がりつつあります。
法務部の仕事は「きつい」だけじゃない!その先に広がるキャリアとやりがい
- 高い専門性が強みとなり、市場価値を高める
- 企業の経営に深く関わる「攻めの法務」の醍醐味
- 法律トラブルを未然に防ぎ、会社を守るやりがい
- 法務から広がる多様なキャリアパス
- チームで協力し、大きな達成感を味わえる
- 総括|法務部の仕事は本当に「きつい」のか?現役法務部員が語る実態
高い専門性が強みとなり、市場価値を高める
「きつい」と言われる法務部の仕事ですが、そこで培われる専門知識は、あなた自身の大きな強みになります。
企業法務、知的財産、国際法務、M&Aなど、特定の分野に特化することで、その道のプロフェッショナルとして市場価値を飛躍的に高めることができます。
特に、IPO(新規株式公開)や事業承継といった専門性の高い分野の経験は、その後のキャリアにおいて非常に有利に働き、高年収のポジションへとつながる可能性を秘めています。
専門性を高めた法務担当者は、企業内でゼネラル・カウンセル(最高法務責任者)を目指すだけでなく、他企業へ転職し、自身のキャリアをさらに切り開いていくこともできます。
企業の経営に深く関わる「攻めの法務」の醍醐味
法務部の仕事は、もはや単なる「守り」ではありません。
社内における法律の専門家として、事業の成長を積極的に推進していく役割を担うこと、それが「攻めの法務」です。
例えるなら、営業部門が「売上」というゴールに向かって走るストライカーだとすれば、攻めの法務は、そのストライカーがゴールを決めやすいように最適なパスを出す司令塔のような存在です。
単にファウルをしないように見張る(=守りの法務)のではなく、どこにパスを出せば相手の守備を崩せるか(=ビジネス上のリスクを回避しつつ、新たな機会を創出するか)を考えます。
具体的には、以下のような役割を担います。
- 新規事業の「設計図」づくり:新しいサービスや商品を企画する段階から参画し、法律上の課題やリスクを洗い出し、どのように事業を進めればトラブルなく成功できるかを提案します。
- 知的財産戦略の構築:開発部門と連携し、新しい技術やアイデアを特許や商標で保護する戦略を立てます。これにより、会社の競争優位性を長期的に確保します。
- M&Aの成功を導く:買収対象企業の法的リスクを評価するだけでなく、買収後のシナジーを最大化するための契約スキームを提案します。
自分の意見が経営判断に直接影響を与え、会社の未来を切り開いていく瞬間は、法務職ならではの大きな醍醐味と言えるでしょう。
法務部門は、単なるコストセンターではなく、ビジネスの成長を加速させるプロフィットセンターとして、その存在感を高めています。
法律トラブルを未然に防ぎ、会社を守るやりがい
法務部の仕事は、目に見えにくい「予防」がメインであると述べましたが、この「何事もない」状態を作り出すことが、最も大きなやりがいとなります。
日々、契約書の条文一つひとつを精査し、リスクの芽を摘み取ることがそれです。
その地道な努力が、会社を法的リスクから守り、安定した経営を支えているという事実は、法務担当者にとって深い満足感をもたらします。
あなたが関わった契約が、将来の大きな紛争や損失を未然に防いだとき、その達成感は格別です。
これは、会社の信頼を築き、ステークホルダー(利害関係者)からの評価を高めるための重要な貢献と言えます。
法務から広がる多様なキャリアパス
法務職のキャリアは、単一の道ではありません。
専門性を高めていく道もあれば、そのスキルを活かして全く異なる分野へ進むことも可能です。
ここでは、法務部員が歩むことのできる具体的なキャリアパスをいくつか紹介します。
1. 企業法務のスペシャリスト
一つの企業に長く在籍し、その会社の事業や業界特有の法律に精通する道です。
経験を積むにつれて、チームリーダー、法務部担当部長、そして企業の最高法務責任者であるゼネラル・カウンセル(General Counsel)へと昇進していくのが一般的です。
経営層に直接アドバイスを行う重要な役割を担い、企業の成長戦略に深く関与します。
2. 専門分野に特化したエキスパート
特定の法律分野の専門家としてキャリアを築く道です。
- 知的財産専門家:特許、商標、著作権などの知財戦略を専門に扱い、企業の技術やブランドを守るプロフェッショナル。
- 国際法務専門家:海外進出や国際取引を専門とし、各国の法規制や商習慣に対応する。語学力と異文化理解が不可欠です。
- コンプライアンス専門家:企業の法令遵守体制を構築し、社内の不正行為やリスクを未然に防ぐ。
3. 法務経験を活かした他部署へのキャリアチェンジ
法務で培った論理的思考力、交渉力、リスクマネジメント能力は、他の部署でも非常に重宝されます。
- 経営企画:事業計画の策定や新規事業の立ち上げにおいて、法的観点からビジネスモデルを構築する。
- 事業開発:M&Aやアライアンスの交渉において、法務知識を活かし、有利な条件を引き出す。
- 内部監査:社内の不正を監査し、ガバナンス強化に貢献する。
4. 法律家としての独立
弁護士資格を持つ法務部員は、企業内弁護士としてキャリアを積んだ後、法律事務所へ転職したり、独立開業して企業顧問となる道も拓けます。
企業法務の現場経験は、法律事務所の弁護士にはない強みとなります。
チームで協力し、大きな達成感を味わえる
法務部の仕事は、個人プレーのように見られがちですが、実際はチームでの協力が不可欠です。
特に大規模なM&A案件や、複雑な紛争解決など、困難を極めるプロジェクトでは、法務部のメンバーだけでなく、財務、経理、事業部門などクロスファンクショナルなチームで知恵を出し合い、解決策を探ります。
多様な専門性を持つメンバーと協力し、一つの目標に向かって議論を重ね、困難を乗り越えたときの達成感は、一人では決して味わうことのできない、格別なものです。
この協業プロセスを通じて、あなたは法務知識だけでなく、コミュニケーション能力やプロジェクトマネジメント能力も磨くことができます。
参照ページ
法務部ってどんな仕事?きつい?未経験でも転職できる?などの疑問を解決! | 管理部門(バックオフィス)と士業の求人・転職ならMS-Japan
総括|法務部の仕事は本当に「きつい」のか?現役法務部員が語る実態
この記事のポイントをまとめておきます。
- 法務は「きつい」だけではない: 膨大な業務量や専門知識の習得は確かに大変ですが、それはプロとして成長するための試練です。
- やりがいのある仕事: 会社の損失やブランドイメージの失墜を防ぎ、企業の経営に深く関与する「攻めの法務」の面白さを実感できます。
- 多様なキャリアパス: 企業内での昇進だけでなく、専門家としての独立や他部署へのキャリアチェンジなど、様々な将来の選択肢があります。
- 将来性のある専門職: 法務の専門知識はAIに代替されにくく、あなたの市場価値を長期的に高めてくれます。
- チームでの達成感: 部署を横断するチームで協力し、困難な課題を乗り越えることで、大きなやりがいを得られます。